2007年12月5日水曜日

EBVとMS

ハーバードのneuro-epidemiologistのDr Alberto Ascherioが客員教授として招かれ、Neuroinflammation programのランチセミナーで講演されました。内容は、MSにおけるEBV(Epstein-Barr virus)感染の疫学で、とても興味深いものでした。
EBVは不顕性感染として小児期に感染し、成人になるまでにほとんどの人は抗体を持ちますが、思春期以降に感染した場合、伝染性単核球症を引き起こすことがあります。また、アフリカではバーキットリンパ腫の原因ウイルスとして重要でもあります。
小児MSやアメリカ海軍の血清バンクを用いた研究で、EBVに既感染である者は未感染者よりもMSを発症するリスクが10倍程度高いことがしられており、またMS発症者では伝染性単核球症の既往の割合が高いことが報告されています。
小児におけるEBV抗体保有率は発展途上国で高く(80%以上)、高緯度の先進国では低い(約40%)ですが、これは衛生環境の違いによるものです。MSの発症要因の一つに高衛生環境が考えられており、乳幼児期のEBVを含めた微生物感染の欠如が免疫機構のTh1優位をもたらし自己免疫疾患を引き起こしている可能性が示唆されています。
新生児あるいは乳幼児期にEBV感染を経験せず、ある一定年齢以上でEBVに感染するとMS発症リスクが高まるとすれば、生まれてすぐのワクチン接種などが発症を予防できる可能性があります。
事実、MS病変で見られるB細胞はほとんどすべてEBV感染しており、EBV感染したB細胞は持続的に抗体産生能を示すためにオリゴクローナルバンドの出現を引き起こすことは容易に想像できます。
EBV感染だけがMSの発症要因ではないことは確かですが、数あるウイルスの中でも病態に最も大きく関わっているウイルスの一つであることは間違いありません。

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